高In組成窒化物半導体による室温連続動作量子カスケードレーザの実現に向けて2つの内容で研究を進め、以下の成果が得られた。1)量子カスケードレーザ(QCL)の利得形状、線幅増大係数に関する研究:QCLの発振閾値電流を下げ、室温連続発振を可能にするためにはサブバンド間での利得形成メカニズムを理解し、構造設計する必要がある。しかしながら、波長が中赤外域にあり、有効な手段がなかったためにこれまでその解明は進んでいなかった。本研究ではQCLの線幅増大係数(αパラメータ)とそのデチューニング特性を調べることで利得形成や閾値以上での利得形状を明らかに出来た。戻り光を利用する非対称Self-Mixing法を考案し、これを8/5μm-QCLに適用してαを測定した。その結果、αは利得ピーク波長に対して非対称となり、利得がピーク波長に対して対称でないことを見出した。この原因としてサブバンドの非放物線性とそれに基づく利得形状の理論的検討、更には非平衡フォノンが電子緩和に及ぼす影響の解析を進めた。その結果、LOフォノン共鳴を使う3準位系QCLでは利得が長波長側に尾を引く非対称形状となり、αパラメータのデチューニング特性を説明できることが分かった。またこの測定を通してQCLのαが発明当初から言われていたようなゼロではなく、デチューニング依存性を持つことを初めて明確に示すことに成功した。2)InN/InGaNヘテロ接合に関する研究:InGaN/InN系QCLの実現に向けて内部電界の影響を受けず、高い発光効率が期待される無極性面での結晶成長技術の開発を進めた。RF-MBE法を用い、R面サファイア基板上に窒化処理を行った後、テンプレート用A面InNを形成した。その上に400℃でInNとInGaNとを成長させた。RHEEDとXRD測定から六方晶A面結晶が成長していることを確認でき、PL測定ではInGaNからの明瞭な発光ピークを観測されるに至っている。またInN層とInGaN層との間に低温InGaN中間層を導入することでInGaNの表面平坦性が向上でき一定の前進が得られた。
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