分子の結合状態は原子核の周辺の電子の状態で決まり、この状態はシュレディンガー方程式と呼ばれる未知固有値を含む偏微分方程式によって表わされ、一般に、摂動を用いた近似的な数値解法が用いられる。 本研究では、シュレディンガー方程式を積分表現し、電子の分布を表す波動関数を固有関数展開(既知の固有関数が任意の重みの重ね合わせ)を用い、その展開係数(重み)をシュレディンガー方程式が満足するように決定する。さらにこの固有関数群にある条件を満足するように選ぶことにより、領域積分を級数和に変換する手法を検討した。この方法では、通常の偏微分方程式の解法に必要な格子が不要であること、さらに領域積分も不要であることから、いずれの計算過程にも離散化による近似を含まないのが特徴である。 展開係数の決定には、研究の前半では、生物の進化を模擬した遺伝的アルゴリズムを用いた。遺伝的アルゴリズムは、解探索アルゴリズムであり、展開係数を染色体とみなし、染色体の集合の中で方程式を満足しやすい個体同士により新たな子孫を生成し、最終的に方程式をほぼ満足する個体(展開係数)を決定する。 これらの組合せにより、水素原子のような球対称のポテンシャルにおいて解を決定できることが示せた。また、電界中の水素原子のような非球対称問題についても、固有関数の積の領域積分が近似のない級数和へ変換可能なことを示した。さらに、遺伝的アルゴリズムを用いなくても、連立一次方程式として方程式を解く方法も判り、これにより高速な計算が可能となった。しかし、複数電子の問題までは残念ながら解決には至っていない。 一方で、遺伝的アルゴリズムも染色体の定義域を自動的に変更できるアルゴリズムを開発した。これは、本研究での目的である非線形方程式の解法に限らず、不連続関数へのフィッティング問題でさえ、有効であることが判った。
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