研究概要 |
チタン合金と同等の高い耐腐食性能を有するマグネシウムシリサイドをスパッタ法によってマグネシウム(Mg)合金表面に薄膜として形成し,素地合金の耐腐食性を向上させる際,薄膜形成過程における膜近傍における素地結晶粒の粗大・成長の有無を確認すると同時に,静的引張特性ならびに動的疲労強度への影響を解析する.昨年度は静的強度評価として,汎用Mg合金AZ31製引張試験片表面にMg-Si薄膜を形成し,常温にて引張試験を行った結果,スパッタ皮膜を形成しない試験片と大差は無く,引張強さ・破断伸びの低下が生じなかった.そこで本年度は,動的強度評価として大越式摩耗試験を用いて繰り返しヘルツ応力を付与した際のMg-Si薄膜と素地の界面剥離挙動を観察することで密着強度を評価した.なお,高温XRD結果を元に結晶化温度(430℃)を設定し,その温度近傍で熱処理(3.6ks)を施すことで結晶化皮膜を比較試料として準備した.また薄膜のヤング率を120GPa,膜厚を500〜700nmとした場合のMg合金素地と薄膜の界面近傍に最大ヘルツ応力が作用するように軸材側の直径を9.15〜10.85mm(3水準)に設定した.摩耗試験を連続1.8ks実施した後,Mg-Si薄膜試料側の断面を観察した結果,非結質および結晶化構造のいずれの薄膜においても素地との接合界面には亀裂は発生しておらず,Mg合金素地側に約3〜8μm離れた位置に薄膜に並行に亀裂が不連続に存在していた.この結果よりMg-Si薄膜とMg素地との界面強度が十分に高いことが示唆されたとともに,薄膜のヤング率が素地のMg合金に比べて3倍程度大きいために僅か素地側へ移動した位置に最大ヘルツ応力が付与されたと考える.なお,結晶化皮膜においては膜の成長方向に対して平行に微細な亀裂が多数発生していた.これは柱状結晶の粒界近傍部に濃化したMg領域が微細亀裂を誘発したと考える.
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