研究概要 |
1.目的 一般に,BN薄膜には六方晶BN(hBN),立方晶BN(cBN)がそれぞれ存在する.一方,hBNは軟質で潤滑剤として幅広く応用されている.cBNについてはダイヤモンドに次ぐ超硬質薄膜で熱伝導性,電気絶縁性に優れ,化学的安定性や耐熱性がダイヤモンドより優れている.ところで,電子ビーム蒸着により薄膜を堆積させながら同時にイオンビーム照射を援用するイオンミキシング蒸着法(IVD法)によるBNの作製例は少なく,特に成膜条件が薄膜の構造や特性に与える影響については明らかでない.そこで平成17年度では,BN薄膜の組成・構造や特性に及ぼす輸送比,加速電圧および基板温度の影響を中心に調べ,cBNの最適成膜条件についても検討した. 2.方法 BN薄膜の作製にはIVD装置(日新電機(株)製; IVD20/30 E2/80-DE型)を用い,基板は(100)単結晶Siウエハである.加速電圧Eを0.2,0.5,1.0,1.5,2.0keV, Bの蒸発原子数と基板に照射するNイオン数の比である輸送比B/Nを1〜5として種々のBN薄膜を作製した.また,加速電圧0.2keV,輸送比4の条件では,基板温度をN.T.(温度制御しないで水冷),373K,573K,773Kと変化させて薄膜を作製した.膜厚はいずれも1μmであり,その他の成膜条件については加速電流9mA,アーク電圧80V,減速電圧1.5kV,基板回転速度0.1rev/s, N_2ガス流量4sccmである.一方, BN薄膜の表面・断面形態は電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察し,組成および結合状態はX線光電子分光法(XPS),結晶構造についてはフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)によりそれぞれ評価した.硬度測定についてはヌープ硬度計を用い,体積抵抗率は2重リングプローブ法により測定した. 3.結果 1)BN薄膜の表面・断面形態に及ぼす輸送比や加速電圧の影響は少なく,いずれも微細で柱状組織を示す. 2)BN薄膜は加速電圧の低下とともにBリッチとなり,hBN単層からcBNとhBNが混在したものへと変化する. 3)ヌープ硬度は加速電圧に依存せず輸送比2〜4において極大値を示し,また基板温度の上昇とともに減少する. 4)輸送比の増加,加速電圧の低下とともにBN薄膜の体積抵抗率は増加する.
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