研究概要 |
本研究は,過酷環境下に対応し得る密着性に優れた超硬質保護コーティング膜の実用化を図るため,真空蒸着とイオン注入を融合したイオンビーム援用蒸着法により窒化ホウ素(BN)薄膜を作製し,その分子動力学評価を行うことを目的としており,具体的には次のような事柄が挙げられる. 1)基板との密着性が極めて優れ,緻密で強力な薄膜形成が期待できるイオンビーム援用蒸着法によってBN薄膜を作製し,その最適成膜条件を探る. 2)作製したBN薄膜の形態,組成・構造や機械的・化学的性質を調べるとともに,実用化に不可欠な薄膜の密着性向上を目指した分子動力学評価を行い,最適成膜条件との関係を明らかにする. 3)上述の特性評価結果を基に,過酷環境下に対応し得る超硬質保護コーティング膜として実用化に不可欠な密着性向上の設計基準を提案する. ところで,BN薄膜には六方晶BN(hBN)と立方晶BN(cBN)が存在し,前者は軟質で化粧品や潤滑剤など幅広く応用されている.一方,後者についてはダイヤモンドに次ぐ超硬質薄膜で熱伝導性,電気絶縁性,化学的安定性や耐熱性などが優れているが,成膜が極めて困難であるのが特徴である.そこで平成18年度では,イオンビーム援用蒸着法により上述の2)の目的に焦点を当て,cBN薄膜の最適成膜条件を検討した結果,以下の事柄が明らかになった. 1)BN薄膜は加速電圧の低下および輸送比B/Nの低下とともにBリッチとなり,hBN単層からhBN相とcBN相が混在したものへと変化する. 2)hBN単相から(hBN+cBN)混合層へと変化するにつれて,BN薄膜の体積抵抗率は増加する. 3)ヌープ硬度は加速電圧に依存せず輸送比2〜4において極大値を示し,また基板温度が常温で低指数のSi基板ほどその値は大きくなる. 4)(hBN+cBN)混合層が形成している薄膜は,hBN単相膜と比べて大きな圧縮の内部応力が生じ,その差は膜厚が大きいほど増加する傾向がうかがえる. 現在,実用化に不可欠な薄膜の密着性向上を解明するため,まず蒸着モデルを構築し,運動方程式の解法にはベルレ法を用いて成膜初期段階における原子の挙動を分子動力学法により検討している.
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