本研究では硬脆材料の高能率かつ亀裂発生を抑制した無欠陥機械加工を目的に、その被削性の向上を検討するものである。硬脆材料の亀裂発生を抑制するためには、加工点の表面エネルギーの減少の抑制さらに積極的にその増加を図ることが必要である。まず欠陥の定量的評価法として4点曲げによる破壊応力の比較、またマイクロビッカース押し込み法を用いて加工に直接関与する表層の表面エネルギーまたはこれと直接関連する破壊靱性の評価を行った。 主として典型的な均質硬脆材料であるガラスを対象に、まず最初に破壊靱性の向上法について検討した。機械加工に多用される加工油剤の主成分である、水、オイルの影響について検討した結果、スピンドル油は水に比して3〜4倍の深さまで亀裂の発生を抑制することが可能であり、スピンドル油を用いることにより、被削性は2〜3倍向上することが判明した。さらに加工表面を金属でコーティングすることにより、水に比して6〜7倍の深さまで亀裂の発生を抑制する、すなわち6〜7倍の被削性向上が可能であることを見出した。この状態を常に実現できれば被削性向上が期待できる。 しかし事前に工作物表面を常に金属でコーティングすることは不可能であり、また加工によりこの層が除去された後にはこの効果が期待できない。そこで、加工点近傍にのみ金属コーティング効果を常に実現する方法について検討した。この方法として加工中に工具の近傍に金属を配置し、これを何らかの方法でイオン化し加工点近傍に継続的に吸着させることを検討した。金属をイオン化させる方法として高電場を利用することとした。予備的検討として、結合材が銅のダイヤモンド電着砥石を工具とし、これと工作物間高電場(1KV/mm)を付与しながら丸棒の研削加工し加工後の工作物の4点曲げ試験により欠陥量の定量的評価を行った。加工油剤としては、大気、非イオン水およびスピンドル油について検討した。まず電場の極性の効果については、工作物側を負極(-)とすることにより、電場を付与しない場合に比して欠陥の発生を大きく抑制することが出来ることを見出した。また油剤の効果についてはスピンドル油中では電場付与の効果はほとんど見られず、一方非イオン水ではこの効果が顕著であった。これは金属イオンの移動がスピンドル油中で不可能であったためと想定される。この方法を長旋削加工に適用し、金属イオン源として、金、銀、銅について検討した結果、イオン源である金属の種類の影響は少なく、かつ軽切削条件では、処女材と同等の損傷状態を実現できることが判明した。さらに今後高能率の切削条件、イオン種の検討が必要である。
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