研究概要 |
本年度は,MD法(分子動力学法)を用いた接触シミュレーションとSPM(走査型プローブ顕微鏡)を用いた接触実験を行ない,原子・分子間の相互作用の及ぶミクロスケールの接触について検討を行った. (1)MD法によるシミュレーション:ミクロスケールの接触問題をシミュレーションする上で,SPMによる接触実験を考慮して,カンチレバーの先端と平面試料が接触するモデルを作成した.モデルは,先端半径が10nm,材質を金とし,押し付け速度なども考慮しながら計算した.結果は,ヘルツの計算値では連続体を前提としているため接触圧力が負のときに接触する部分は生じないが,原子間力を考慮したシミュレーションから得た今回の値は接触圧力が負のときにおいても接触がみられた.これは,原子間相互作用力によるもので,マイクロスケールの領域において特に顕著になる力であると考えられる.また,試料が接近していくときに発生する吸着力の値は,今回のシミュレーション条件では約250nNであった. (2)SPMによる接触実験:金をコーティングしたカンチレバーとガラス表面に金をスパッタした試料間の吸着力をSPMのフォースカーブにより測定した.今回実験した範囲では,15〜390nNの値が得られた.(1)のシミュレーション結果の値はこの範囲に含まれるものの,明確に一致する結果を得ることができなかった.このことは,真空中で実験を行ったり,表面の水吸着分子の除去も行っているが,十分に水分が取り除かれているか,試料の静電気の影響,カンチレバー先端のチップ形状の影響などによるものと考えられるため,今後もさらにデータを積み重ねるとともに,試料表面のエネルギーを考慮した解析とも併せて検討を行っていく予定である.
|