研究概要 |
高面圧でしかも固体接触を伴う過酷な潤滑状況での,実際の鋼製転がり軸受のEHL膜厚とその挙動の観測のためには,従来からの光学的な観測だけでは不十分であり,光を透さない実際の軸受面間でのEHL膜部の潤滑状態を明らかにする必要がある.本研究では超音波パルス反射法での観測を提案しでおり,17年度は先ず,従来の光学的な測定法と超音波法での膜厚測定結果との比較を単球EHL装置で行ない,超音波膜厚推定にとって必要な基礎的な情報を得ると共に,同方法を市販の鋼製軸受に適用してEHL膜厚推定の可能性を検討した. (1)50ナノメータ以下の油膜厚さを測定できるよう,計測・解析系に改造を施した超音波探傷映像装置に,数ナノメータの精度で油膜厚さの制御が可能な光干渉膜厚較正装置を組み込む改造を行った.大気圧・静的条件の下で,50MHz高周波探触子により求めた油膜厚さと超音波の反射特性との関係は,薄膜部での超音波の干渉を考慮して考案した膜厚推定式とよく一致することが確かめられた. (2)さらに,上述の超音波探傷映像装置に,単球型EHL試験装置を組み込むための改造を行った.回転円板をパイレックスガラスとして光干渉法で観測したEHL膜の形状と超音波法で観測したエコー高さの分布形状は定性的な一致をみた.また,静的な条件下で求めた,接触状態にある鋼球とガラス間の膜厚と反射エコー高さの分布は,超音波の照射領域でのエコー高さの分布を考慮して上述の算定式より求めた双方の関係とよく一致した.この結果は,円板の材質を単球と同じ鋼とした場合でも同様であった.これらのことから,超音波法によりEHL膜の厚さを算定するための前準備が整った. (3)一方,市販の転がり軸受でのEHL膜の測定の可能性を確かめるために,転動体公転停止機能を備えたスラスト軸受試験機を,前記の超音波探傷映像装置に組み込む改造を行った.市販のスラスト軸受の片方の鋼製ワッシャを滑らかな鋼製平板に変更して測定したEHL膜厚の分布は,上述の単球実験装置の結果とほぼ一致した.転走面に曲率を持つ市販の鋼製軸受のワッシャについても同様の実験を行ったが,超音波の反射特性に対する転走面の曲率の影響は少なく,定性的な結果ではあるが,市販軸受でのEHL膜厚推定の可能性を確認できた.
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