研究概要 |
高面圧でしかも固体接触を伴う過酷な潤滑状況での,実際の鋼製転がり軸受のEHL膜厚とその挙動の観測のためには,従来からの光学的な観測だけでは不十分であり,光を透さない実際の軸受面間でのEHL膜部の潤滑状態を明らかにする必要がある.本研究では超音波パルス反射法での観測を提案しており,18年度は,エコー高さと膜厚の関係を示す較正曲腺を用いた簡易な膜厚推定法を静止条件下で確立すると共に,EHL部での固体接触やキャビテーションの把握の可能性を検討した.また,市販の鋼製軸受に適用した場合のEHL部の潤滑状態評価法についても検討した. (1)前年度に行った膜厚測定の可能性(主として静止条件下)の検討において,探触子や周波数フィルター,また超音波の照射径の違いが膜厚の推定精度に大きく影響することがわかった.そこで,そのような影響を省くために,既知の膜厚に対するエコー高さの関係を予備的に実測し,較正曲線を求め,これにより静的な膜厚の推定を行うようにした.その結果,100nm以下の膜厚が,表面に数十nmのコーティング層を持つ面の場合を含めて,容易に推定できることが明らかになった. (2)超音波探傷映像装置に,ガラス平板と鋼単球型EHL試験装置を組み込んだ前年度の装置を用いて,微小な荷重変動下でのEHL膜の挙動ならびに,出口部でのキャビテーションの発生状況を観測したが,EHL領域内では荷重変動に伴いエコー高さがわずかに変化するだけで,キャビテーションの兆候は現れなかった.しかし,出口部においてはエコーの急激な低下が生じ,その後の後流領域でもエコーの変動が認められた.光学的な観測から,それらが,出口部のキャビティーとその後の油膜破断であることが明らかになり,超音波法でのキャビテーションの観測の可能性を確認できた.ただし,円板の材質を単球と同じ鋼とした場合には,出口部での急激なエコーの変動が現れなかったことから,材質等による油膜挙動の違いを把握できる可能性もあることを確認できた. (3)市販の転がり軸受の潤滑状態を把握できる,転動体公転停止機能を備えたスラスト軸受試験機を用いて,固体接触の開始直前までの膜厚挙動と固体接触発生後の反射エコー高さの挙動の観測を併せて行ったが,EHL膜部の油が高圧化するため,音波が透過しやすくなり,固体接触の介入が頻繁な混合潤滑との優位な差が得られ難いことが明らかになった.そして,EHL膜中を伝播し難く,固体接触の発生により急激な透過が生じる,せん断波である横波での固体接触割合の検討が有効となることを,基礎実験により確かめたが,詳細は今後の課題となる.
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