研究概要 |
本研究では,実機条件に近い流れ場で高い性能を発揮する低圧タービン翼を開発するため,実機条件を発生することが可能な翼列試験装置及び翼の最適化手法を開発することを目的としている.今年度は,(1)翼列試験装置の製作及び(2)翼形状の最適化手法の開発に注力した.それぞれの項目について,今年度の実績を以下に示す. (1)翼列試験装置の製作 典型的な航空用エンジンの低圧タービン動翼を元に,スケールアップされた翼列を製作した.翼は静圧分布計測及び翼面境界層計測用の翼を含んでいる.後者に関しては,より詳細な境界層速度分布を計測するため,さらにスケールアップしたモデルを製作した.この翼列試験装置は,翼列の負荷を変えるため,翼列のソリディティが自由に変更できる.また,実機条件を摸した流れ場を得るため,上流側の翼後縁を模擬した円柱(直径3mm)を移動させることにより後流を発生させる装置を製作した.ピトー管及び熱線流速計を用いた予備的な計測の結果,翼列の健全性(周期性など)を確認するとともに,翼面剥離の発生や後流通過による剥離抑制効果,また,それに伴う翼列の空力損失の変化などが観測された. (2)翼形状の最適化手法の開発 実機条件下で高い空力性能を有する翼列翼形状を得るため,多目的遺伝的アルゴリズムの手法に基づく最適化手法を開発している.翼面はベジエ曲線で表現し,曲線パラメータ群を30〜40程度のビットのバイナリ表現を「遺伝情報」と見なすことで,進化的な考えに基づき,最適な空力性能を有する曲線パラメータを探索するものである.この種の探索法では,流れ場の解析が最も計算時間を要し,結果を得るのに月単位の時間が掛かる場合もあるが,今回高速化格子ボルツマン法を新たに開発し,それを採用することで,通常のNSソルバー並みの計算精度を数十倍程度の速度で得ることを実現した.これにより,パラメータ数を大幅に増加させることも可能になり,精緻な翼設計が実現可能の範囲内に入ってきた.
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