研究概要 |
本研究は,生体適合プラズマ放電部下流域に形成されるラジカル流動場の機能性を利用した滅菌機構の解明を行い,ラジカル流動場と生体との干渉に関する工学的学問体系の構築と実用化への展開を図る事を目的とする.本年度は,超微弱発光領域の超高感度分光分析および大腸菌の滅菌特性を検証した.超微弱発光領域の分光分析を行うため,放電部からの強い発光を遮断し,乱反射を低減する装置を新たに開発し,フォトンカウンティングシステムによる超微弱発光分光に成功した.また,大腸菌の滅菌特性では,照射温度,照射距離,照射時間の影響について明らかにし,大腸菌の高さや細胞質の溶出濃度を解析することで,滅菌機構の解明を目指した.得られた結果を以下に示す. (1)放電部下流の超高感度分光では,放電部の発光強度と比較して8桁程度小さい発光の計測に成功した.これにより,放電部下流の発光種は,作動ガスであるアルゴンの支配的な領域,空気とアルゴンの混合領域,アルゴン励起原子領域の3つの領域があることが明らかにされた. (2)大腸菌の滅菌特性では,大気圧マイクロ波プラズマ流を利用して,作動ガスにアルゴンのみを用いて滅菌が可能であることを明らかにした.滅菌特性は,温度一定の場合,照射時間が長いほど,また照射距離が近いほど効果が大きく,照射距離が近い場合は放電部からの紫外線効果が大きくなることが明らかにされた.プラズマ流照射により,大腸菌の高さは半分程度となり,また細胞液の溶出の増大が確認されたことより,細胞壁の損傷が死滅因子である事を示した. (3)細管内部に発生させた誘電体バリア放電を利用したプラズマ流により,医療滅菌の指標として用いられている枯草菌芽胞の滅菌が可能であることを明らかにした.印加電圧が10kV以上であれば,3分以内に細管内部の滅菌が可能であり,革新的な医療用基盤技術の基礎資料の提供ができた.
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