研究概要 |
本研究では、エタノール水溶液を用いたアイススラリーを、気相・液相・固相の3相が共存する(1)恒温状態(定常相変化)および凍結温度よりも少し高い温度で一定温度に保持するよりも複雑で実機に近い、(2)温度を周期変動させた状態(非定常相変化)の2種類の状態で貯蔵し、アルコール濃度・空隙率・氷の付着状況ならびに結晶形状の経時変化を検討し、貯蔵特性を明らかにすることを目的とした.アイススラリーを貯氷する場合,浮力の関係で、液面上に堆積する部分と液面下に堆積する部分が存在する.そこで、貯蔵容器内の氷結晶を鉛直高さ方向に、上部・中部・下部に三分割して測定・観察を行った.その場合、平均液面以下の部分を下部とした.さらに、平均液面より上の部分を等分割したものを上部と中部とした.恒温状態および温度を周期変動させた状態共に、貯蔵時間は24時間とした.恒温状態では貯蔵開始時のアルコール濃度における凍結温度で温度一定とした.一方、周期変動状態では、貯蔵開始時のアルコール濃度における凍結温度を基点として12時間周期で温度を±1.0℃変動するものとした.以上の2種類の貯蔵条件において、アルコール濃度測定、結晶の形状変化観察、気相・液相・固相の体積比率の測定を行った.測定・観察結果を以下に示す.恒温状態で貯蔵を行った場合、上部以外では、氷結晶は全体的に丸みをおびた形状になり、貯蔵前と比較しても形状変化はあまり見られなかった.特に、下部ならびに下部近傍の中部は常に周囲に液相が存在し、水溶液中の貯蔵と変わらない流動性に富んだスラリー状態であった.一方上部では、焼結によって氷結晶は凝集し、流動性の乏しい、より大きな結晶となる傾向が見られた.さらに、気相・液相・固相の貯蔵前後での体積比率を比較した.その結果、系全体の熱の流入・流出が無いため、貯蔵前と貯蔵後での気相・固相・液相の比に大きな違いは見られないことが分かった.一方、周囲温度を周期的に変動させて貯蔵した場合、結晶観察より、液面以下で流動性のあるアイススラリーのまま貯蔵されるのに対し、液面よりも上の部分では、凝集が活発に起こり、積極的に氷結晶が成長することが分かった.これは、温度の周期変動によって、貯蔵中にアイススラリーが融解・凝固を繰り返し、平均液面が上下することが起因していると考えられる.そこで、気相・液相・固相の体積比および濃度測定を詳細に測定し検討した.その結果、凍結温度よりも温度が高い場合に、上部の氷が融解し、周囲の溶液濃度が薄まる.その後、周囲が再び冷却されると濃度の薄い溶液が優先的に凝固することによって、氷の成長が促進する.また、液相が重力で落下した後、氷同士が接触・凝集し、さらに大きな氷結晶に成長することが分かった.中部は液面変動による影響が大きく、氷が融解してできた低濃度の溶液は下部へ流れ出し、次第に固相割合が減少するものの気相が増加するため、結晶は凝集・成長する.下部は、流動性のあるスラリーのままである.以上のことから、周期変動時には、液面を境にして流動性のあるアイススラリーと凝集・成長した氷に、二極化することが分かった。
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