3次元空間内をランダムに移動する仮想目標物体を遠隔操作状態での仮想の手で追従させ、その特性を解析した。さらに、被験者がトラックボールを用いて能動的に物体を回転して観察した条件と、他の被験者が物体を回転したリプレイを受動的に観察した条件との間で、後の物体認識課題の成績を比較するとともに、能動的および受動的物体認識課題遂行中の脳活動を脳磁計(MEG)を用いて評価した。その結果、以下の諸点が明らかとなった。 1.提示仮想物体の反転運動に追従して手の運動方向が反転するまでの時間(方向反転潜時)は、遠隔操作時の奥行き方向で特異的に延長し、操作する手と仮想の手とのズレ量が大きい程顕著であった。ただし、ある範囲(遠隔追従限界)内では反転潜時の延長が認められず、私たち人間が既に獲得している手の運動制御機構の空間的範囲の拡張が示唆される。 2.遠隔追従限界は、利き手が非利き手に比べて多少広く、両利きの被験者ではほぼ同等であった。追従課題の試行回数に伴って方向反転潜時が減少する傾向が利き手で確認され、既に獲得された手の運動制御機構と密接に関連しつつ、新しい運動制御が学習されたと推測される。 3.被験者自身が能動的に物体を回転する観察条件では、他の被験者が回転したリプレイを受動的に観察した条件に比べて、後の物体認識成績が有意に向上し、物体の記憶表現と見えとの間の照合過程が促進された。能動的探索あるいは受動的観察を行う前後で物体認識課題遂行中の脳活動をMEGで測定した結果、能動的探索後では左頭頂間溝周辺の活動減少傾向が見られた。これは、能動的に見えを探索することで得られる運動系の情報が比較照合過程の負荷を減少させていることを示唆している。
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