研究概要 |
よく知られているように,臨界電流密度は高温超伝導体(HTS)の工学的応用にとって最も重要なパラメタの1つである.それ故,臨界電流密度の非接触・非破壊測定法の開発が従来待ち望まれてきたのである. HTS薄膜の臨界電流密度を測定するために,Claassen等は誘導法を開発した.平成18年度の研究では,数値シミュレーションによってClaassen等の実験結果を再現し,ひいては誘導法の精度を検証することを目指した.この目的を達成するため,平成17年度に開発した数値シミュレーション・コードを大幅に改造した.同コードは,HTS薄膜中を流れる遮蔽電流密度の時間発展を解析するものであるが,HTS薄膜に単層構造を仮定していた.本年度はHTS薄膜の2次元性を考慮することにより,HTS薄膜に多薄層構造を仮定した.平成17年度の研究成果から明らかになったように,遮蔽電流密度方程式を離散化すると,HTS薄膜を単層として扱った場合でさえ特異積分を係数とする連立非線形方程式が現れた.それゆえ,多薄層構造をもつ薄膜を考えると,各層の厚みが数十nmとなるため,被積分関数の特異性は著しく強いものとなる.この難点を克服するため,被積分関数の特異性を十分に考察した.さらに,2重積分の1重部分はGauss-Legendre積分で近似し,残りの1重部分にだけDE積分を適用すれば十分であることを半解析的に証明した.特異積分を評価するためのこの方法は,遮蔽電流密度解析だけに適用できるものではなく,T法で定式化された電磁界解析に広く適用できる. 本年度の研究では,上記積分法に基づいて数値シミュレーション・コードを改造し,さらに,同コードを用いてClaassen等による誘導法を数値的に再現することに成功した.
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