研究概要 |
よく知られているように,臨界電流密度は高温超伝導体(HTS)の工学的応用にとって最も重要なパラメータの1つである.それ故,従来より臨界電流密度の非接触・非破壊測定法の開発が待ち望まれてきたのである. HTS薄膜の臨界電流密度を測定するために,Claassen等は誘導法を開発した.薄膜の上部に配置したコイルに交流電流を流しながら,Claassen等はコイルに誘導される高調波を観測した.その結果,コイル電流の振幅が或る閾値を越えた場合に限り,第3高調波電圧が検出されることを発見した.この結果は閾値電流を測定することによって,臨界電流密度を見積もれることを示している. 他方,HTS薄膜の臨界電流密度を測定するため手法として,誘導法と全く異なった永久磁石法を大嶋等は提唱した.彼らはHTS薄膜に永久磁石を近づけた後に遠ざけながら,薄膜に作用する電磁力を観測した.その結果,最大反発力が臨界電流密度に近似的に比例することを実験的に示した.この結果は磁石とHTS薄膜との電磁相互作用を測定することにより,臨界電流密度を決定できることを意味している. 本研究では,HTS薄膜中を流れる遮蔽電流密度の時間発展を解析する数値シミュレーション・コードを開発し,数値シミュレーションによって誘導法と永久磁石法の両法を再現した.本研究を通して得られた結論を要約すると,次のようになる. 1)誘導法のシミュレーション結果によれば,臨界電流密度の大きさが0.25MA/cm^2以上の場合,誘導法の精度は3%以下であるが,臨界電流密度の大きさが0.25MA/cm^2未満になると,精度は著しく悪化する. 2)永久磁石法のシミュレーション結果は,最大反発力が臨界電流密度にほぼ比例するという大嶋等の実験結果と見事に一致した.
|