研究概要 |
本研究は,高分解能で磁気情報を得ることができるスピン偏極走査トンネル顕微鏡(スピン偏極STM)を開発することを目的とする.ここでは,スピン偏極STMを使用するための超高真空チャンバシステムを作製した.超高真空チャンバシステムは,分析チャンバと準備チャンバから成り,スピン偏極STMは,分析チャンバの中に設置される.この分析チャンバではSTM測定や試料加熱などの他に,レーザ照射によって生じる非線形光学効果の測定,低速電子線回折/オージェ電子分光測定などができるようになっている.STMは,チャンバ内にあるアナリシス・ロッドに取り付けられており,STM測定時には床の振動が伝わらないようにコイルバネによって除振される.また,分析チャンバには,最大8KOeの磁界を発生できる電磁石が取り付けられており,試料の磁化の向きを変えることができる。また,STMユニット自体に磁界発生用小型コイルがあり,探針を磁化させることも可能である.アナリシス・ロッドに設置されているSTMは、チューブ型圧電素子,粗動用の慣性スライダ,コイルバネによる除振機構,試料ホルダ,プリアンプから成る.STMの制御回路は,我々が開発した簡易型表面解析装置のものを使用した.試料-探針間に流れるトンネル電流をプリアンプで電圧に変換し,16bitのA/Dコンバータでデジタル値として読み取り,試料-探針間の距離を一定に保つようにデジタル制御される.試料表面の走査は,探針が取り付けられている圧電素子に三角形の走査電圧を加えることによって行う.スピン偏極STMとして磁気情報を得るため,ロックインアンプを使ってバイアス電圧を変調し,電流の変化を測定する機能を開発した.これによってスピン情報を含む状態密度の計測ができるようになる.今年度は装置の開発が中心となったが,今後,超高真空中でのSTM測定,スピン偏極STMによる高分解能磁気測定を行う.
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