今年度は、既に提案している光線解析手法の一つであるSBR法の精度を向上させるために、壁を透過して伝搬する透過波の寄与と、散乱体のエッジで励振される回折波の寄与を効率よく解析に取り組む手法について主に検討した。前者は室内間、あるいは室内外を通した電波伝搬の解析において、また後者は室外における特に見通し外の比較的電波強度の弱い電波伝搬の解析に重要な成分となる。 実空間における光線追跡において、建物の壁に代表されるコンクリートのような損失性誘電体媒質を透過する伝搬角度については、複素屈折角度を導入して解析的に計算を行うことが多い。しかし光線追跡法の揚合、透過して伝搬する電波を実空間で逐次計算しながら伝搬させたい。そのため、実角度で伝搬させて減衰を計算する方法を考案して、精度よく解析できることを示した。これにより、光線追跡が実空間で比較的簡単に行えることになり、解析の時間が大幅に削減できることになった。 また回折波の寄与を効率よく計算する方法についても検討した。散乱体となるすべての建物のエッジにおいて生じる回折波の計算は、エッジの数に比例して計算時間が膨大になる。したがって主要となるエッジを選択し計算時間を増やさない工夫をして、その妥当性を検討した。 こうした検討の結果、室内外の伝搬環境に応じて主要となる成分を解析にうまく組み込み、今まで行われてきた実測や他の解析法の結果とよく一致する比較的計算時間が短い手法を考案することができた。
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