研究概要 |
将来の高速大容量のユビキタス情報通信に対応して,今後使用される電波の周波数は,さらに高くなると予想される。そこでこうした電波の伝搬量推定予測のための効率のよい解析手法について検討した結果,高周波漸近解析手法の一つであるSBR(Shooting and Bouncing Rays)法が最適であると結論した。 SBR法は,電波を光線近似し,波源から放射された電波を逐次追跡しながら,その伝搬量を解析していく方法であり,散乱体となる建築物の壁等による反射,透過,回折等の物理的な散乱過程に沿って解を組み立てることができるため,わかりやすく都合がよい。しかしその反面,複雑な伝搬環境の予測に対しては,多数の散乱体があることにより,膨大な多重散乱伝搬路が存在するため,個々の散乱波の寄与をすべて含めた解析は,事実上無理である。したがってそれぞれの観測点において,主となる寄与を与える成分を見極め,それらのみによってどのくらいの時間で,どのくらいの精度が得られるかを把握する必要があった。ある限定した条件をつけた伝搬環塊については,別解法によって解析が可能であるので,それらの結果との比較により本研究で考案した解析手法の計算精度を検討し,高周波の室外電波伝搬環境においては,直接波,多重反射波と一次回折波の寄与が重要であること,室内の伝搬環境においては,壁による多重反射波と多重透過波の寄与が重要なことを示した。特に建築物の壁は損失誘電体とみなされ,その壁を透過する場合の光線追跡の方法について詳しく検討した。加えて実測結果との比較を行い,本手法による解析結果の妥当性を確認した。 電波伝搬予測は,電波が目に見えないためにわかりにくい。そこで解析で得られた多量の電磁界計算量を利用して,電界,磁界の強度分布を色付けで表したり,電磁界ベクトルの方向,大きさを三次元的に可視化したり,また伝搬方向や電磁界の力線の時間的変化をアニメーション表示したりして,電波伝搬の様子を理解しやすい表現法の検討も行った。
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