本年度に実施した研究成果は主に以下の2点である。 1.Copulas理論と信号の正値の時間一周波数分布との関連について Copulas理論を援用して非定常確率過程の正値の時間-周波数分布を推定する際、周辺分布を如何に推定するかという問題が重要になる。本年度は周波数周辺分布(スペクトル)の推定法についての研究を進め、対数ペリオドグラムにおける不等間隔ペリオドグラム平滑化法ともいうべき推定法を開発した。これは、通常一定幅の窓関数の移動平均によって行われるペリオドグラム平滑化によるパワースペクトル推定における平滑化窓幅の問題点を解決するもので、平滑化幅をスペクトルの形状に合わせ自動的に、しかも不等間隔に決定することが可能であり、時間-周波数表現の周辺分布推定という問題のみならず、それ自体がノンパラメトリックなスペクトル推定法としても価値ある研究成果である。 2.瞬時等価帯域幅を用いた生体信号解析への応用について 昨年から始めた眠気に逆らって覚醒維持を続けた状態の脳波データを測定する実験を実施した。これは眠気に逆らって覚醒維持の努力をすることは通常の傾眠とは異なると考えられ、これまでこうした研究はほとんど見られない。そこで被験者に座位開眼で読書してもらい、この間、眠気が誘発されても覚醒を維持するように指示する実験を行い、その間の脳波を瞬時等価帯域幅によって解析を試みた。その結果、覚醒維持の努力をしている区間の脳波は非常に帯域が広く、脳の活動が活発化しているように見えることを明らかにした。これは覚醒と睡眠の中枢である視床下部と能動的行動を司る前頭部の関係を知る上でも大変興味深い研究成果である。こうした関係をより詳しく調べる上でも、前頭部に混入する瞬きや眼球運動によるアーチファクトの除去法などの信号処理における課題を今後解決していく必要がある。
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