研究概要 |
近年、原子炉の高経年化などに伴って構造用金属材の疲労の蓄積状態を確実に把握し余寿命を推定しようとする技術の開発が急がれている。我々は、オーステナイト系ステンレス鋼のマルテンサイト変態を利用した残留磁化法を従来研究してきたが,今回,渦電流型に分類される励磁型磁気センサによるオーステナイト系ステンレス鋼の疲労蓄積量推定法の研究を提案し,以下に述べるような有益な結果を得た。 本年度は,昨年度(平成17年度)の結果を考慮して,渦電流を用いた疲労蓄積量推定用励磁差動型磁気センサを用いてSUS304鋼を対象として更なる疲労推定実験を繰り返した。実験では励磁差動型磁気センサの駆動面での周波数(30-50kHz程度)や励磁電流(10mA程度)といった最適値を用いた。この実験結果から,昨年度実験できなかった平面曲げ印加応力と差動ピックアップコイルの出力の関係は,FG型磁気センサによる残留磁化法と同様によい直線性を示し,疲労蓄積量との高い相関ともあいまって渦電流を用いた励磁差動型磁気センサは十分にオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304の疲労蓄積量の評価に利用できることがわかった。しかし、この励磁差動型磁気センサで疲労の蓄積量の分布を求めるためには,平面的な走査と組合せる必要があり,疲労蓄積量の定点観測型としては使用しにくいことがわかった。また,渦電流型であるため試料端部効果や亀裂の影響が大きく使用に制限もあることがわかった。さらに,試料表面の微小な傷などがノイズ信号となる欠点があることもわかった。そのため,デジタル信号処理と組み合わせてノイズの低減を図ったり,残留磁化法と同様に疲労蓄積量の分布を知るために,励磁差動型磁気センサの出力を空間的に積分することによって求める数値処理の方法も提案し,磁気センサの基本的性能のアップと平行して信号処理の必要性も確認した。 以上の2年間のこの研究から,今後状態監視用に使用できる疲労推定用磁気センサの開発の方向性を知ることができた。
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