研究概要 |
本研究の目的は、様々な植生上における蒸発散量、顕熱フラックス、CO2吸収量の時空間スケール(周波数)依存性を明らかにすることにある。初年度となる本年度はまず、データの取得を目的として、(独)森林総合研究所富士吉田試験地において、赤マツを中心とする森林において既設のタワーを利用した観測を行った。定常的なモニタリング観測を継続するとともに(Ohtani et al.,2005;Yamamoto et al,2005)、今後の精度向上のための測定手法の改良を行った(安田ほか,2005,溝口ほか,2006,Asanuma et al,2005)。また、2005年9月より2ヶ月間、定常観測にさらに観測機器を加えた集中的な観測を行った。森林キャノピー内外で計5高度の顕熱フラックス観測、計3高度での蒸発散量およびCO2吸収量の観測、計8高度のプロファイル観測を行い、計約60日間分の良質の乱流データを取得した。これまでにこの大量のデータの品質チェックを行った。この富士吉田試験地において得られたデータは、今後の本研究においてさらに解析が行われる予定である。また、他のサイトにおいて得られたデータを用いて、予備的な解析を行った。モンゴルにおける草原・森林の観測データから、蒸発散量、顕熱フラックス、CO2吸収量の年内変動の要因を解析した結果、森林と比較して草原における地表面熱収支およびCO2吸収量が、降水量と降雨後の土壌水分量に大きく依存することが明らかとなった(Li et al,2005a,2005b,2006a,2006b)。また、チベット高原上における観測データをもとに、境界層対流スケールの対流活動が温度と湿度の変動に影響を与え、ボーエン比法のように両者の相似性(渦拡散係数の同一性)を用いた計測手法の精度を悪くすることを明らかにした(Asanuma et al,2005)。また、水田上における観測データにウェーブレット変換を適用し、乱流とメソスケールの境界域において輸送される顕熱および水蒸気フラックスの性質を明らかにした(Saito et al.,2005)。
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