群馬県のほぼ中央を南北に流下する利根川を挟んで、その東西で渓流の硝酸態窒素濃度に顕著な差があることが分かり、その原因は首都圏由来の大気汚染物質であることが推測されている。本研究では、この仮説を検証するために、森林における物質循環モデルを用いてシミュレーションを行った。モデルとしては、Lin等のモデルを基本として、窒素循環をさらに明確に取り扱うために、樹木の炭素量と窒素量の構成比から、成長に必要な窒素uptake量を推算した。また、リタフォール量などについては過去の多くの資料から、群馬県の森林に対しての平均的な量を推算した。このように改良したモデルへのinputとなる、大気からのNOXx降下量は、利根川を挟んで東西で計測されている降雨中の窒素量から推定した。シミュレーションの結果は、利根川の東西でそれぞれ、渓流水の窒素濃度をほぼ説明する値が得られ、シミュレーションの妥当性と同時に、東西での渓流水窒素濃度の差は大気汚染物質の降下量の差であることも確認できた。つぎに、そうした大気汚染物質の降下量の差が生じる理由について、関東平野を対象とした風の場のシミュレーションによって明らかにしようとしている。ただし、現在のところ風の場のシミュレーションについては実施中である。 また、物質循環モデルを用いて、日本における大気汚染物質の平均的な量をinputとしたシミュレーション結果では、日本全体の平均としては、まだ、窒素のリーチングは発生しないことが確認できた。
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