研究課題
基盤研究(C)
群馬県の中央を南北に流れる利根川を挟んで、その東西で渓流の硝酸態窒素濃度に顕著な差があり、その原因は首都圏由来のNo_xであることが推測されている。本研究はこの仮説を検証するために、17年度には森林の物質循環モデルを用いて窒素の河川へのリーチングのシミュレーションを行った。モデルは、Lin等のモデルを基本として、窒素循環をさらに明確に取り扱うために、樹木の成長に必要な窒素の吸収量を樹木の炭素量と結びつけるとともに、リターフォール量などについても過去の多くの資料を参考に、群馬県の森林に対しての平均的な量を推算して用いた。このように改良したモデルによって、大気からのNox降下量の差によって、利根川の東西のそれぞれで、渓流水の窒素濃度をほぼ説明する値が得られた。しかし、一方では実測の土壌中の窒素量と渓流の窒素濃度との間に必ずしも明快な関係が認められない地域もあり、今年度はその原因を土壌中の脱窒菌量の差に求めて室内実験を行った。土壌中の窒素濃度分布に大きな差のあるを箇所から土壌を採取し、蒸留水を加えて土壌抽出水を作り、嫌気状態に保った上で窒素濃度の減少を調べた。しかし、必ずしも実測の土壌中の窒素濃度分布の形状との相関は認められず、脱窒菌の多寡に関する検討はさらに進める必要があることが分かった。したがって、シミュレーションの精度を上げるために、土壌中の脱窒菌の量を考慮する試みは、本研究期間では達成できず、今後の課題となった。また、風のシミュレーションについては群馬県境界の詳細な地形を取り込んで進めるところまではできなかった。したがって、モデルへの入力となる窒素降下量については、従来よりの実測値を用いざるをえなかった。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (2件)
日本森林学会誌 88・6
ページ: 534-540
Journal of the Japan Forest Society Vol.88, No.6