研究概要 |
降雨による裸地斜面の表面浸食は,崩壊地からの土砂の生産・流出の問題の本質であり,畑地からの土壌流出とも密接に関わり合うことから,その力学的理解と浸食量の予測とが求められている.このような現地の裸地斜面には少なからず粘土が含有されることが知られており,この浸食が進行する過程を詳細に理解するためには,粘土を含む材料により構成されるモデル斜面を対象とした実験が有効である.しかし,粘着力発現のメカニズムの複雑さなどから,粘着性土の浸食に関する研究はほとんど行われてこなかった.このような点に鑑み,本研究では,著者らによる最近の研究の成果とこれまで培ってきた実験技術を駆使して,粘着性斜面の浸食過程に関する実験的検討を行った.ここでは,粘土の含有比率の違いが表面浸食のプロセスに与える影響を明らかにすることを目的とした.本研究により,粘土含有率が15%程度になると,粘土分による耐浸食性の向上が顕著となり,側方浸食(横浸食)が抑制され下方浸食(縦浸食)が卓越する浸食過程となり,結果として幅が狭く深い流路が形成されることが確認された.また,枝流路の発達が抑制され,浸食を受ける斜面の範囲が限られてくる傾向にあることが理解された. さらに,粘土が湿潤・乾燥の履歴を受けて不均一な水分状態になった場合を対象として,粘土が浸食を受けるプロセスや浸食速度がどのように変化するかを明らかにするための水路実験を行った。結果として,(1)湿潤・乾燥の初期段階において浸食速度が突発的に大きな値をとる特異な浸食が生じることがあること,(2)湿潤・乾燥のサイクルを繰り返すと乾燥が進み含水比が液性限界に漸近するようになり,浸食が生じなくなること,(3)こうした特別な場合を除けば,著者らがこれまでに提案してきた浸食速度式を用いて浸食速度を予測することが可能であること,等が明らかになった.
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