本研究の目的は、鋼構造溶接部の動的外力下で破壊性状と引張り強さ・変形能力の支配因子の検討を行い、歪み速度が溶接部の破断性状と引張り強さ・変形能力に与える影響を明らかにする事である。これにより、動的外力の影響を考慮した溶接構造物の安全性評価の基礎的資料が得られる。 本年度は、昨年度同様、溶接によって靭性が変化した供試体を安価に安定して製作する方法として再現熱サイクル試験機による熱加工に注目し、引張り試験片の中央部に再現熱サイクル試験機で溶接熱影響部を再現した後に高速引張試験に供した。本年度は、昨年度実験を行ったSN400との比較を行い、鋼種の違いによる歪み速度の影響の違いを把握するため、SN490と組成の大きく異なる2種類のHT780を対象とした。まず、それぞれの鋼材の熱加工サイクルとシャルピー吸収エネルギーの関係を把握するための実験を行った。その後に、歪み速度と応力集中の有無をパラメータとした超高速引張り実験を行った。 得られた主な結論は以下の通りである。(1)シャルピー吸収エネルギーが小さい場合、歪み速度が大きくなると脆性破面率が増加する。(2)延性破断した場合の引張強さは、溶接熱影響受けている鋼材であっても、ひずみ速度が増加するにつれて上昇する。また、この強度の上昇割合の支配因子は静的引張強さであった。ただし、脆性破断した場合の引張強さは、ひずみ速度が増加しても静的引張強度と同程度のままである。(3)応力集中がない場合、ひずみ速度の増加により変形能力が若干低下する。応力集中がある場合、溶接熱影響部の変形能力は、シャルピー吸収エネルギーの大きな鋼材ではひずみ速度が増加するにつれて上昇する。しかし、シャルピー吸収エネルギーの小さな鋼材では変形能力が大きく低下する。このように、応力集中がある場合、高歪み速度下での溶接部の変形能力の支配因子はシャルピー吸収エネルギーであった。
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