現在の耐震設計では、地震による大きなエネルギーを吸収するため、梁などの部材の端部を積極的に塑性化させる設計方法が主流となっている。しかしながら鉄筋コンクリート造が塑性化すると鉄筋とコンクリートとの一体性が損なわれ、コンクリートには大きな曲げやせん断ひび割れなどによる損傷が生じ、場合によっては、構造物は大破あるいは倒壊にいたる。 このため、本研究では、梁端部のヒンジ領域における梁主筋の付着を除去する一方で、付着除去部に曲げ及びせん断に対して抵抗機構を形成しうる補助的な曲げ補強筋を配置することによって、地震時に梁端部と柱の境界面のひび割れ以外の損傷を軽減させるとともに、梁主筋の付着除去部の塑性化により優れたエネルギー吸収能力を有する降伏機構分離型鉄筋コンクリート造を開発することを目的とし、梁の構造実験を行った。 平成17年度では本研究で目標とする性能を実現するための配筋方法やコンクリート強度などをパラメーターとした構造実験を行い、考案した構造が目標性能を発揮しうることを確認し、実験結果の考察より、その基本的な構造特性を明らかにした。また、本構造においては、部材中にほとんど損傷を生じないことから、通常の鉄筋コンクリート造では困難な梁端部の開孔を設けることについても検討しその開孔の補強方法などを明らかにした。 平成18年度では、本構造の設計指針作成のために残された課題である、せん断応力度のレベルの上限、主筋の付着除去の長さ、開孔位置と開孔間隔などについての確認実験を行い、部材角跳程度までは殆ど損傷が生じず、且つ、3%を超えるような変形でも殆ど耐力低下を生じない良好な耐震性能を有する梁の構造方法をならびに復元力特性などの性能評価方法を明らかにした。 以上の研究成果に基づき、本研究課題である損傷軽減機能を有する鉄筋コンクリート造の適用範囲、配筋方法、性能評価法などからなる梁の設計指針を作成した。
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