建築の長寿命化は今日の社会的命題であり、そのための有効な手段の一つに再利用や用途変更がある。本研究は、新規出店が今もなお多く、かつ景気や社会の変動・変化にその需要特性が大きく左右され、結果として社会的寿命の短い建築種の一つとなっているホテルに着目し、その有効利用や長寿命化に関する知見を得ることを目的としている。 研究対象は、日本ホテル年鑑に掲載されている約2100のホテルのうち、最近10年間で「名称・経営者変更(ホテル再利用)」があったものと「閉鎖(用途変更・建替え・遊休化・更地)」されたものとした。研究の方法・手順は、まずそれらのホテルの建物所有者等への郵送調査により、変化の状況・経緯を明らかにした。次にその事例等の中から有益な示唆を得ると期待される21事例について、ヒアリング調査を実施し、具体的な変化の内容・要因、及び有効利用に関わる問題点や知恵(建築及び運営)を抽出した。最後に、『既存ホテル』について、再利用と用途変更に分け有効利用方法の提案を行った。また『新築ホテル』を念頭においた長寿命を可能とするプロトタイプの要件を示し、その具体案として、都市部における「異なった業態のホテルへの変更」型と、都市部郊外/地方都市における「高齢者住宅や福祉系施設への用途変更」型を示し、これらについて法・制度上の課題と事業収支シミュレーション面での検討を行った。 現状の有効利用の事例は多いとは言えない状況であるが、既存ホテルの有効利用と、新築ホテルの長寿命化の方法について多くの知見を得ることができた。
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