本研究の目的は、地域の利水施設として継承されてきた歴史的固定堰に生じる親水活動に着目し、堰の空間形態と空間利用者の行為との対応関係を明らかにすることで、堰の親水空間としての可能性を考究し、親水空間のデザインにも新たな知見を得ることである。具体的には、桂川一の井堰と仁淀川八田堰を対象として、簡易測量や図面資料による空間形態の把握、および、4季8日の現地観察調査による空間利用実態の把握を行った。同様の調査を事前に実施した吉野川第十堰の結果を加え、3堰間での空間形態や空間利用についての比較考察を行った。 空間形態では、堰体の幅が狭く常に越流のある一の井堰、幅が広く常に越流のある八田堰、幅が広く季節や場所により越流のない第十堰という違いがわかった。利用実態では、水に対して間をとる行為が目立つ一の井堰に対し、接水性の高い八田堰という違いが浮上した。第十堰の場合は、双方の特徴が認められる一方、釣りや魚介とり等の採集活動の存在が特徴である。利用実態の違いは、水のかからぬ通路に利用が集中する一の井堰、水面下に堰体が浅く広がる八田堰、季節や場所で様々な空間が出現する第十堰という違いに起因すると考えられる。 空間と行為の対応を断面でとらえると、岸からのアクセス性、足元の状態、水面までの距離という堰自体に関することに加えて、河床の状態、水深、流速という隣接水域に関することが、親水空間の要因として浮上した。岸からのアクセス性や足元の状態では、特に越流の有無が鍵で、大半の行為を左右する。水に直接関わる行為では、水面との距離が重要である。これらの要因は、新たに親水空間を整備する際にも参考となる。 以上を総合すると、歴史的固定堰には親水空間として、1)河川のアプローチ、2)大河川の真中にあるオープンスペース、3)水際の余暇空間、4)接水性の高い親水空間、としての可能性がある。
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