研究最終年度にあたる今年度は、これまでの2ヵ年の研究成果のまとめを行なった。まずは、英国を中心とした欧米諸国の建築保存の実態および現在抱えている問題点を整理した。特に、オクスフォード・カースル地区の再開発について、あらためて関係する都市再開発および建築保存の制度、プロジェクトの進め方、それにともなう諸問題と解決方法、問題点等を整理した。オクスフォード・カースル地区の再開発は、ブレア政権が実行した都市開発のさまざまな新手法を実践したものであり、グレイドIを含む文化財建造物群の保存・活用事業でもある。これらの検討により、経済活性化のための再開発事業においても、既存の建築保存制度が有効に機能していることが明らかとなった。しかし一方で、経済活性化のために、一部、歴史的建造物の現状変更に関する規制緩和も行なわれており、これが、今後、どう評価されるかという課題をもっていることも明らかとなった。 また、わが国の現状に関して、神津島の旧清水勘左ヱ門邸、栃木県小山市の旧小野塚邸、門司・下関地区の近代建築群、の3つの事例を通して、建築保存が抱える具体的な問題点を考察した。旧清水邸の保存・再生計画は、古民家を保存・活用し、島おこしを実践していこうとするプロジェクトである。平成17年の解体時からプロジェクトに加わり、その活用方法を国内・海外の事例を参照しながら検討を行なった。旧小野塚邸は、旧所有者の死去にともない、小山市に寄贈された歴史的建造物群であり、その建築的価値に関する調査に加わり、その後の活用計画の可能性に関して検討した。また、すでに進行しているヘリデイジ・ツーリズムの例として、門司・下関地区の折代建築の保存・活用の実態に関して、調査を実施した。
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