建造物保存の分野で緊急な対策を必要としている課題のひとつに、登録有形文化財の修復への取り組みがある。本研究は、同文化財の中でもとくに地方自治体や企業が所有し、使い続けられることが重視される公共的施設及び近代産業遺産などを対象に、活用を前提とした修復の具体的なあり方を探るものである。建物の価値をどこに置き、それをどのように維持していくかを考える保存と、将来にわたって親しんで使い続けられるよう工夫を必要とする活用、その両立に成功していると見られる事例を対象に調査・分析・評価し、これからの登録形文化財の保存修復のあり方の参考としてまとめ、具体的な取り組み方や考え方・方法に関する指針案としての作成を試みた。 文化庁をはじめとする府県・市町村の行政から事前に情報を得て、各地の現地調査をおこなうとともに、整理しつつあった研究成果をもとに、近代産業遺産の保存活動が活発な群馬県下において、修復における課題、その対策、今後の展望などをテーマに、登録有形文化財の修復に携わる建築家を主体とする研究会を実施した。 以上の三か年の調査研究成果を、「(1)魅力ある各地の登録有形文化財の保存修復」として紹介し、「(2)多様な活用を前提とした保存修復」と題して指針案となるべき考え方、方法をまとめ、「(3)活用の普及をはかり、より多くを遺産としえ伝えていくために」として、今後の展望を述べた。
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