本研究は、2004年に発見された仮議事堂(初代国会議事堂:竣工1890年)の図面をきっかけに、関連文献の収集と分析を通じて仮議事堂を建築史的に復元考察しようとするものであり、研究期間中に日本建築学会を中心に計5件の論文を発表した。まず、今回発見された図面は仮議事堂の実施原図であること、工事中に設計変更がなされて竣工したことを明らかにした。また、当初の煉瓦造から木造に変更かつ縮小されたが、原案を設計したパウル・ケーラーのプランニングが継承されていたことを明らかにした。次に、わずかに遺された写真や明治期の錦絵をはじめとする絵画資料ならびに類例建築から、仮議事堂の小屋組は、当時わが国で「ドイツ小屋」と呼ばれていた技法を用いて、それをタイ・バーで補強した混合構造で造られていたと考えられること、その構法は、同時代のドイツに建てられた祝典会場のそれに酷似していたこと、それは第1回帝国議会開催に間に合わせるという工期の問題があったからに他ならず、双方とも仮設建築であったことに起因することを明らかにした。さらに、仮議事堂の屋根葺き材についてはこれまでスレート葺きと推察されてきたが、本研究では、当時のドイツでこの種の仮設建築にアスファルト・ルーフィングを用いた例が複数あり、わが国では時期的にルーフィング仕様が可能であったことから、工事の最終段階で変更がなされた可能性の高いことを考察した。こうした研究成果を通じて、期間中にとくに貴族院議場とその周辺の50分の1の模型を製作した。唯一遺された仮議事堂の外観写真を参考に、この模型を使ってとくに複雑な起伏を見せる議場周りの屋根伏せを復元的に考察するとともに、建物全体の屋根形状を明らかにした。
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