研究課題
本研究の目的は、電子・原子レベルと連続体レベルの理論手法を組み合わせ、原子配列の緩和から組織形成までの経時過程の高次情報を与えるダイアグラム(経時状態図)の開発にある。これは、相平衡状態図に時間軸を追加し、この軸上において、原子配列(規則度)の変化と、組織変化を追跡し得るダイアグラムの実現化することに他ならない。より具体的には、経時間状態図では従来の平衡状態図の組成(濃度)に加えて規則度(原子の配列)と内部組織に着目し、それぞれの時間変化過程を表現する。特に、Fe-基二元系合金に対象を絞り、経時状態図の計算手法のプロトタイプモデルの確立を目指す。特に初年度は、経時状態図の基礎となる時間スケーリングの問題に重点的に取り組んだ。マルチスケールの計算では時空の適切なスケーリングが必須である。スケーリングとは、ある物理量で規格化したスケールではなく、原子間距離や原子の拡散時間のように微視的に決定し得る長さと時間の素単位を用いて、空間長と時間のスケールに絶対値を与えることを意味する。空間の長さに対しては、「空間粗視化」を行うことで、クラスター変分法に含まれる離散格子の格子定数を用いて絶対値の付与に成功した。時間に対しては、クラスター変分法を時間領域に拡張した経路確率法をフェーズフィールド方程式に混成化するという手法の開発を目指した。規則化過程を自己触媒反応と捉え、反応方程式を介して、経路確率法とフェーズフィールド法の解を比較検討することから、両者にスケーリング則が成り立つか否かを検討した。両手法は、時定数が異なるものの、長距離規則度に関してスケーリング則の成立することを見出した。これは、今後、Cahn-Hilliard方程式とクラスター変分法及び経路確率法の混成化を図る上で、極めて明るい見通しである。
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