研究概要 |
本年度ではまずTEMを用い,Cu-0.5mass%Cr-0.2mass%Ag系合金の機械的・電気的発現メカニズムを詳細に調べ,ついで強度への0.2mass%Zr添加の影響を調べた.Cu-0.5mass%Cr合金への0.2mass%Agの添加は,Cr粒子の核生成を促進し,80%圧延後の500℃ピーク時効で約500MPaから約550MPaへと引張強さを向上させた.さらにこの核生成の促進により,導電率が約82%IACSから約86%IACSへと増加した.また,Cu-0.5mass%Cr-0.2mass%Ag合金への0.2mass%Zrの添加により,Cr粒子の他に円盤状析出物Cu_5Znが形成され,80%圧延後の500℃ピーク時効で引張強さが約550MPaから約660MPaに上昇した.しかし,導電率は約79%IACSへと低下した.これらの引張強さ,導電率は最近開発されたコネクタ用高導電性合金C18080で報告されている値に匹敵する.さらに最適な熱処理条件を今後検討する予定である. また,Cu-Cr-Ag-Zr合金への側方押し出し加工法(ECAP)法への適用の予備段階として,機械的・電気的特性に優れコネクター等に汎用され,しかも本合金に比べ溶製が容易であるCu-4.0mass%Ni-0.95mass%Si合金にECAPの適用を試みた.溶体化処理後の試料にチャンネル角90゜の金型を用いて押し出し後に試験片を90゜づつ同一方向に回転させ再度押し出すひずみ経路,いわゆるRoute Bcにて8回繰り返してECAPを行った.これにより結晶粒径は十分に微細化されており,約0.3μmであった.しかし熱的に不安定であり,350℃で時効を行っても容易に再結晶が起きた.そこで,300℃で40h時効,500℃で1min焼鈍,340℃で10h時効という3段階の熱処理を行った結果,溶体化処理後5%圧延を行い450℃で5h時効した合金に比べ,優れた強度を示したが,伸びは若干小さく導電率は大きく劣っていた.導電率が劣っているのは再結晶を抑制するために比較的低温で時効を行ったことによりNi_2Si粒子の析出が十分でないためである.そこで熱的安定性を増すためCr,Zrを添加しECAPを試みたが,塑性加工性が低下し,試料に亀裂が多数導入された.これらの得られた知見をもとにCu-Cr-Ag-Zr合金へのECAPの適用を現在試みている.
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