研究概要 |
錫めっき浴には,平成17年度と同様の硫酸-クレゾールスルフォン酸錫溶液を利用した。錫めっきは,素地に市販の真鍮板を対極に錫板を使用して,電流密度20mA/cm^2,電気量5.9C/cm^2,浴温度0,5,10,15,20,25℃および無攪拌の条件で行った。錫ウィスカの発生は,錫めっきした試料を温度50℃の恒温器内に静置して光学顕微鏡を用いて評価した。錫めっき膜の残留歪みは,その裏面に歪みゲージを貼った真鍮電極と高感度歪み計を用いリアルタイムで測定した。その結果,(1)めっき初期に素地とめっき錫間の格子不整合による引張歪みが現れその後圧縮歪みへと変化する。(2)圧縮歪みは浴温度が低いほど大きな値となる。(3)錫電析のための電流効率は浴温度が低いほど減少し水素発生が顕著となる。(4)めっき錫の粒径は浴温度が高いほど大きくなる。(5)電解を停止するとその圧縮歪みは速やかに減少し,その後徐々に引張歪みへと変化する。(6)錫電析以外の電流が総て水素発生に使われたと仮定すると,電解停止直後の圧縮歪みは水素発生のための電流効率に比例して大きくなる。ところで,めっきに伴う水素ガスは,[1]気体としてめっき膜外に脱離するものと,[2]めっき膜の内部に留まるものに分かれる。本研究では錫めっきを行いながら,付着ガスが電極に誘起する浮力を利用して電子天秤を用い発生水素ガス量をリアルタイムで評価したところ,水素ガスはめっきに伴い発生して電極に浮力を誘起するが,電解停止に伴い電極から速やかに離脱することが明らかとなった。また波長分散型X線分光器付きの走査型顕微鏡によるその断面観察から,めっき錫内には素地の真鍮から拡散した亜鉛の存在が確認された。 この様な結果は,錫めっきに伴い共析した水素がめっき膜に圧縮歪みを誘起するとともに,その後脱離することで圧縮歪みの緩和およびめっき錫膜への欠陥の導入をもたらし,素地真鍮からめっき錫への亜鉛の拡散が促進されたことを示唆している。
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