研究概要 |
今年度は,17年度から19年度までのデータの整理と解析を行った。 ○従来型研磨液(酸性溶液)と環境優先型研磨液(アルカリ性溶液)の表面皮膜分析の解析を行った結果,それぞれの研磨溶液による試料表面のX線光電子分光分析(XPS)による分析の結果からアルカリ性研磨皮膜は酸性研磨皮膜より密度が低く,皮膜厚さはXPS,グロー放電発光分光分析(GDOES)からアルカリ研磨皮膜の方が1.3倍程度厚いと判断されていたが,透過電子顕微鏡(TEM)の結果から酸性研磨皮膜(10nm前後)よりアルカリ研磨皮膜(15nm前後)と1.5倍程度厚さが異なることがわかった。これはXPSの膜厚計算式に単にAl_2O_3の係数を用いたためとわかった。また,TEMに搭載された電子線エネルギー損失分光器を用いて皮膜の組成を分析した結果,両皮膜ともにAl_2O_3-Al(OH)_3-Al_2O_3の3層ナノ構造をなし,酸性研磨皮膜は表面層から2.5nm程度より約4nm前後の厚さでAl(OH)_3が存在し,一方,アルカリ性研磨皮膜のAl(OH)_3層は表面から8nm程度奥から約2〜3nm程度の厚さしか無いことがわかった。このことは,GDOESの結果から得られた酸性皮膜の表面近傍に水酸基が多く存在する結果と一致した。 ○皮膜のナノ構造解析と反射光波長特性の関係を検討した結果,波長が190〜2500nmの光に対する試料の絶対反射率の角度依存は,アルカリ性研磨面は少ないが酸性研磨面は角度依存が大きく,角度が低くなるにつれて反射率は低くなった。逆にアルカリ性研磨面の拡散反射率は酸性研磨面より1/2以下の値となり,ナノオーダーの凹凸が増加すると短波長の光ほど拡散反射率が低くなることがわかった。これらのことから特に紫外線領域の光学特性は,表面皮膜のナノ構造,網目状組織の大きさ,凹凸の状態や高低差,皮膜厚さや組成などに大きく関係することがわかった。
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