研究概要 |
熱的,化学的性質,光学的性質などにおいて幅広い組成選択が可能であるリン酸塩系のガラスを取り上げ,後年度における拡散実験に供するためのガラス組成について探索し,基本物性を調べた. 1.ガラス組成の探索 リン酸塩ガラスは一般のガラスには見られないユニークな性質をもっているが,反面,耐水性に乏しいことが大きな問題である.したがって,実用ガラスの基礎組成という側面から,広いガラス化領域をもち,かつ比較的耐水性の高い系を目標に探索した.その結果,亜鉛を含む系,ホウ素を含む系が有望であることが分り,R2O-ZnO-B2O3-P2O5系のガラスを基本組成に選んだ. 2.ガラスの溶融 リン酸塩系のガラスは溶融時にるつぼを激しく侵食するので,その容器材料の選定が重要である.この研究では1価成分の一つに銀を用いるので,るつぼの侵食に加えて溶融中における銀イオンの還元を避けるための原料,るつぼ材の選択,そして溶融条件や雰囲気の適正化について検討した.その結果,(1)原料バッチを100〜300℃で十分反応させることが重要であり,(2)アルミナ製,石英ガラス製,白金ロジウム製,それぞれのるつぼでの溶融は侵食を招き,結果として銀イオンの還元や結晶化を引き起こす.したがって,検討した材料のうちで唯一,白金るつぼのみが使用可能であることが明らかとなった.(3)最適温度(実験した系では1,100℃付近)での溶融. 3.熱物性測定 熱膨張測定装置を用いて熱膨張係数,ガラス転移温度を求めた.各物性の組成依存性の結果について,ホウ酸含有量の増加とともに単調に熱膨張係数は下がり,ガラス転移温度は上がった.これはホウ酸の導入によりガラスが熱的に安定化していることが分る. 4.耐水性試験 50℃に保った100mlの蒸留水中で一定時間ガラス試料を保持して,ガラスの水への溶出した試料重量の変化によって耐水性を評価した.その結果,ホウ酸量の増加に対して耐水性は必ずしも単調に増加せず,10mol%付近で耐水性が最もよかった.この原因についてリン酸塩ガラスの構造研究に関する文献調査を行い,ホウリン酸塩ガラスにおけるさまざまな構造単位の構成比率が組成によって変化し,ある組成で化学的に安定な組織をとることによると推定した. その他,必要に応じて化学分析,各種分光スペクトル測定を行って,各種結果の考察に役立てた.
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