同一の化合物であっても、異なる結晶構造を有する現象を、結晶の多形現象という。最近有機結晶を取り扱う分野(例えば医薬品製造)で、この多形現象が品質管理上の問題となる事例が増えてきている。医薬品製造ではエネルギーコストが低く、熱変成の心配がないため非溶媒添加晶析が試みられる例が多い。しかし、非溶媒添加晶析による多形制御の具体的設計方法がないなどの問題を抱えている。そこで、本研究では、結晶多形を有する有機物を対象として、次の手順で高品質で高収率な晶析プロセスの設計手法を確立することを目的した。 1.非溶媒の添加方法を工夫し、多形制御された結晶を製品として回収する。 2.非溶媒添加途中での多形転移現象をモデル化する。 3.添加条件の決定を支援するシミュレーションモデルを作成する。 4.シミュレーションをもとに多形制御された結晶粒子群製造法を確立する。 本研究では消炎剤の医薬品インドメタシンを対象とした。インドメタシンには複数の多形(α、β、γ形)が報告されているが、本研究ではαとγ形を対象とした。γ形が安定である操作領域内で晶析操作をおこなうためにはγ形の析出速度が必要となる。よって混合溶媒(良溶媒と非溶媒混合)組成によって、どの多形が安定であるかを測定した後、結晶の析出速度を測定し、析出速度定数を求めた。溶液中の非溶媒組成の割合が高いと析出速度が速いことが分かった。これらの結果を基に物質収支式から溶液濃度変化を計算したところ、結晶の推進力に関係する溶液濃度は非溶媒の添加速度の影響を受けていることが分かった。また適切な添加速度を設定すれば、所望の領域内で晶析操作を行なえることも確認できた。さらに添加初期に非溶媒をゆっくりと添加し、その後徐々に添加速度を速めることで晶析操作時間が短縮できることを明らかにし、非溶媒添加晶析プロセスでの多形制御手法に対する設計指針を示すことができた。
|