機関員による運転状況の把握や点検は船舶の保全業務にとって重要な作業であり、これによって機器異常の早期段階での発見やセンサ未設置場所での不具合の発見など通常の監視システムでは想定できない異常を発見することが可能である。さらに、機関要員の視覚・聴覚・嗅覚による異常検出では広範囲の状況を把握することができる。しかし、聴覚によって異常音を検出しようとした場合、船舶の機関室内の騒音レベルが高いためにそれを聴取することが難しい。これは主機関や発電機などの機関室騒音によって情報となりうる小さな音の聴取が妨害されて起こるマスキング効果によるものである。 本課題では妨害音と聴取力の関係を調査すると共に、主機関の運転音を分析してその特徴を把握することから始めた。純音の妨害音による聴取力はその周波数と音圧レベルに大きく影響されることを大学内の学生と職員の協力による聴取能力の実験から明らかにした。次に主機関の運転音を妨害音としたときの人の聴取力を調べた。この結果から聴取力は瞬間的な高レベルの妨害音にも影響を受けることが明らかになった。上記のことから妨害音と聴取力に関する基礎データを収集することができたので、それらのことを考慮してマスキング効果を減少させる手法について検討を行い、聞き取りにくい情報の聴取を改善する聴覚監視支援装置の開発へつなげた。得られた成果は日本マリンエンジニアリング学会の学術講演会にて発表を行うと共に、当学会誌の第41巻5号に掲載された。
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