本年度は先ず、昨年度までの研究で高温水系バルク中の放射線分解における反応動力学のシミュレーションに使用して来た計算コードを拡散境界層における反応と拡散を加えた系に適用するための手直しを行った。数多くの短寿命化学種を取り扱うためには計算の結果であるアウトプット・データを図表等に処理するためのソフトを導入することが効率的に研究を進める上で必要である事が判明し、その調整を行っているが手間どっている。 OHラジカルの効果について、限られた条件下において解析により近似的に評価する事を試みた。放射線分解によるOHラジカルの濃度は、H_2添加による低減効果がH_2O_2に次いで低いため、H_2添加条件下では、H_2O_2の効果に対して無視できない場合が生じ得る事が見出され、その条件を詳細なシミュレーションに基づくマッピングによって明確にする事が必要になった。OHの効果は常にH_2O_2との関係で決まるものであるから、H_2O_2に対するOHの定常状態濃度の比が重要な意味を持ち、この比が添加H_2量に対して最大となる条件が存在することが分かった。 拡散境界層中における拡散と反応の両者を考慮したモデルが妥当であることを検証するため、H_2O_2のみについて両者を加えた計算を行って、解析解との対比を行った。バルクと拡散層間の境界条件の入れ方及び金属表面におけるH_2O_2の表面反応の速度をどのように入力するかによって、相当な影響が生じることが明らかとなり、その設定をどのようにすべきか最適化の手法を検討している。
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