学習・記憶など脳の高次機能の研究は神経科学では重要な課題の1つである。ショウジョウバエなど昆虫にも匂いや電気ショックなどを連合した学習記憶が存在し、その中心にあるのがキノコ体と呼ばれる神経構造体である。我々は分裂阻害剤を用いた化学殺傷法でキノコ体で高く発現する遺伝子をマイクロアレー解析で約100個えている。本研究はその候補遺伝子群がどのような遺伝子網として存在し、どのように生体内で発現しや個々の機能を有しているかを網羅的に解析していく目的で行われた。In situ hybridizationではTSA増幅法による高感度検出法により、キノコ体細胞帯やその周辺の脳の皮質の比較的広い領域で発現が認められた。その中では、哺乳類でも高く保存された酵素群、転写遺伝子群およびシグナル系因子など、脳の高次機能やキノコ体発生に関わる因子として予想される遺伝子群のダイナミックな発現がまとめる事ができた。また、ショウジョウバエの遺伝学の利点としてRNAi変異体を、組織特異的な系統を掛け合わせることで、その子孫の表現型を比較的簡単に網羅的に解析できる事ができる。我々は国立遺伝学研究所の上田研究室のRNAi変異体バエを有効に活用する事で、多くの発生中の表現型をまとめる事ができた。今後の更なる細胞レベルでの機能損失型実験や個々の変異体の更なる研究が必要だが、変異体解析のヒントとなる情報として蓄積する事ができた。ショウジョウバエでは組織特異的発現系統の解析が空間的な物に加えて時期的な解析も可能な系統が年々開発され、ますます網羅的な機能実験も進んで行く事が予想される。脳の高く保存された遺伝子群の解析から、種を超えた遺伝子基盤の実体が明らかにされるためにも、今後このような研究が活用される事が期待される。
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