生物は様々な受容体を通して音、光り、匂いなどの外界の環境からの情報(刺激)を得て、それに対して適切な反応をしている。これらの受容体が様々な外部環境の変化に呼応して共進化してきたことは間違いない。また受容体の多様性が、それぞれの生物の棲息環境を規定するうえで重要な役割を担ってきた。このような受容体の一つに、温度受容体がある。ヒトやマウスでは現在までに異なる温度に対応する6種類の受容体分子が知られている。この6種類の受容体が対応する温度は、52℃以上、42℃以上、33℃以上が2種類、25℃以下そして17℃以下である。本研究ではヒトがなぜこのような温度に対応する受容体をいつどのように進化させてきたのか、またヒトが脱アフリカ以降世界各地に適応していった過程に温度受容体の多様性がどのような役割を果たしてきたかを明らかにすることを目的とする。そのため、これら温度受容体遺伝子の進化と、ヒト集団における温度受容体の多型に焦点をあてて次の2課題について研究を遂行した。 1.温度受容体遺伝子の分子進化:ヒト、チンパンジー、ウシ、イヌ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュのゲノムデータベースから高熱刺激受容体2種および温刺激受容体2種のオーソログあるいはパラログを単離し、分子進化学的解析を行なった。その結果進化速度が受容体のメンバー感で異なること、魚類には2種類の受容体しか存在しないこと等が明らかになった。また哺乳類の温度受容体での正の自然選択の可能性を現在調べている。これらの結果は平成18年度中に国際誌に投稿する予定である。 2.ヒト集団の温度受容体遺伝子の多様性:異なる民族集団において、温度受容体の多様性を調べる実験を開始した。今年度は高熱受容体の一つであるTRPV1遺伝子の多様性を調べることとした。イオンチャンネルを形成する膜貫通ドメインを含むおよそ5kbの領域について塩基配列を決定する実験を開始した。平成18年度中には、塩基配列の決定を終え、解析に移行する予定である。
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