生物は様々な受容体を通して音、光、匂いなどの外界環境からの情報(刺激)を得て、それに対して適切な反応をしている。これらの受容体が様々な外部環境の変化に呼応して進化してきたこと、また受容体の多様性が、それぞれの生物の棲息環境を規定するうえで重要な役割を担ってきたのは間違いない。温度受容体はこのような受容体の一つである。ヒトやマウスでは現在までに異なる温度に対応する9種類の受容体分子が知られている。本研究ではヒトが、なぜこのような温度に対応する受容体を、いつどのように進化させてきたのか、また脱アフリカ以降世界各地に適応していった過程に温度受容体の多様性がどのような役割を果たしてきたかを明らかにすることを目的とする。そのため、これら温度受容体遺伝子の進化と、ヒト集団における温度受容体の多型に焦点をあてて次の2課題について研究を遂行した。 1.温度受容体遺伝子の分子進化:ヒト、ウシ、イヌ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュのゲノムデータベースから高熱刺激受容体2種および温刺激受容体2種のオーソログあるいはパラログを単離し、分子進化学的解析を行なった。その結果これらの分子の進化速度は受容体のメンバー間で異なること、魚類には2種類の受容体しか存在しないこと等が明らかになった。また、鳥類とほ乳類の祖先へいたる系統で過剰なアミノ酸置換が観察され、機能的分化との関連が示唆された。これらの結果は現在国際誌に投稿中である。 2.ヒト集団の温度受容体遺伝子の多様性:異なる民族集団において、温度受容体の多様性を調べる実験を開始した。今年度は高熱受容体の一つであるTRPV1遺伝子の多様性を調べた。イオンチャンネルを形成する膜貫通ドメインを含むおよそ5kbの領域について68個体から塩基配列を決定した。現在これらの解析を行っており、平成19年度中には国際誌に投稿予定である。 3.人類の歴史での感覚受容体の分子の進化の関わりを日本語総説にまとめた。
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