微小管は、細胞分裂などの重要な細胞機能を制御している不可欠な細胞内構造である。分裂期に微小管の重合状態がモニターされ、それに異常がある場合には細胞周期が停止する。このとき微小管阻害剤で処理し続けるとアポトーシスをおこす細胞が多数出現するが、その分子機構はわかっていない。微小管結合タンパクOrbitは、微小管の+端に集積し、その安定性を制御する。ショウジョウバエの培養細胞で微小管結合タンパクOrbitを大量発現させると、微小管が異常に安定化され、それにともない核の断片化などアポトーシスの特徴が観られた。さらにGa14/UASシステムによりOrbitを複眼成虫原基内で大量発現させた。このとき細胞内で異常な微小管の束が作られていることを確認した。それらの細胞は細胞死をおこしており、Caspaseの活性化も確認された。一方、orbitの2重鎖RNAを複眼成虫原基内で発現することによりこれをノックダウンすると、微小管の+端が不安定化される。このときも大量発現の場合と同様にアポトーシスの誘導が確認された。以上の結果を総合すると、Orbitの量的変動により微小管ダイナミクスが変化し、その異常を感知してCaspaseに依存したアポトーシスが誘導されることが明らかになった。このアポトーシス誘導に関わる制御機構を明らかにするために、この大量発現と同時に微小管重合チェックポイントに関わるbub1、mad2、さらにDNA損傷に応答したアポトーシスの誘導に必要なp53を複眼成虫原基内でノックダウンしたところ、Orbitの大量発現によるアポトーシスが低下した。この結果から微小管ダイナミックスの変化は微小管重合チェックポイントに関与する遺伝子により感知され、p53を介してアポトーシスが誘導されるという可能性が示唆された。
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