研究概要 |
昨年度の調査により、西表島において果物で繁殖するショウジョウバエの寄生蜂としてBraconidae2種(Asobara japonica, A.pleuralis),Figitidae2種(Leptopilina victoriae, Ganaspis sp.)を確認することができた.そこで,これらの寄生蜂を介して巻き添え競争が起こりうるかどうかを調べるため,野外調査および室内実験を行った.野外調査は,西表島の人家環境と森林で行った.それぞれの環境にバナナを置き,1週間放置した後,実験室に持ちかえり,そこからショウジョウバエ蛹を採集し,ハエが羽化してくるかハチが羽化してくるかを調べた.その結果,人家環境で優占するショウジョウバエはD.takahashiiであり,この種にはA.japonicaが多く寄生していた.一方,森林環境で優占するショウジョウバエはD.albomicansであり,この種にはA.pleuralisがよく寄生していた.これらのショウジョウバエおよび寄生蜂を用いた室内実験の結果,D.takahashiiはA.japonicaには抵抗性を進化させておらず,またD.albomicansはA.pleuralisには抵抗性を進化させていないことが示された.一方,D.bipectinata, D.ficusphila, D.albomicansはA.japonicaにD.takahashiiはA.pleuralisに抵抗性を進化させていた.上記の結果およびこれまでに提出された理論から,優占する寄主と寄生蜂間には軍拡競争が起こり,寄主は抵抗性を獲得しにくく,一方個体数の少ない寄主は寄生蜂にとってはよい資源ではなく,コストをかけてまで寄生能力を進化させる対象ではなく,そうしたショウジョウバエは抵抗性を獲得しやすいと考えられた.しかし,両環境で個体数の少ないD.lacteicornisは両寄生蜂に対して抵抗性を獲得していなかった.この種についてはさらなる研究が必要である.以上の結果から,D.lacteicornisとD.takahashiiおよびD.albomicansとの間では,これら2種の寄生蜂を介した巻き添え競争が起こりうるが,他のペア間では,起こりにくいと結論された.このように,西表島では,巻き添え競争はショウジョウバエの群集構造に影響を与える要因としては必ずしも重要なものではなかった.もっとも,今年の研究ではFigitidaeの2種については調査していない.この2種の寄生蜂については次年度調査する予定である.
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