研究概要 |
計画に基づきこれまで14年間継続してきニホンジカ個体識別による継続調査の成果を解析した。 調査を開始した1990年よりも前に生まれた個体はすべて死亡したので完全な生命表が完成した。これにより雌雄別の寿命や繁殖年齢があきらかになった。 死亡要因は基本的に冬の餓死すなわち密度依存的な死亡であったが、1997年のような大量死の年はなんらかの密度非依存的な要因が効いていることが示唆された。死亡集団年齢は平年と大量死年で大きく違い、平年は子ジカに偏っていた。 オスには3カテゴリが認められ、ナワバリオス(T)は全体の19%程度であったが67%もの交尾を独占していた。なわばりをもたないが優位なオス(D)は11%で、交尾は10%、残りの70%は劣位(S)で交尾数は20%であった。すべてのオスがS,D,Tのステップをふむわけではなく、早くTになって長く維持するものから、一生Dにさえなれないものもいた。体重はT,D,Sの間で有意に違いがあった。 ニホンジカではアカシカがハーレムをもっていたのに対して交尾なわばりをもっていた。これは密度が高く見通しがよくない環境にいるため、メス全体をガードすることが困難であるためと考えられた。 メスは5歳前後で妊娠を始め基本的に隔年出産であった。育児年には夏に体重増加がないか少なく秋に発情しないことが多かった。メスの繁殖成功には1産から6産ほどのひらきがあった。 これまでアカシカなどで詳細な調査がおこなわれたにもかかわらず、メスによる多回交尾や複数オスとの交尾は報告されていないが、ニホンジカではきわめて頻繁にみられた。これは重大な発見であり、これまでの研究に見直しを迫ることになるであろう。 行動観察と遺伝学との接点についての成果は論文として公表した。また金華山のシカを支えるシバ群落は高密度の集団を維持しているが、そのメカニズムと生態的意義について論文として公表した。
|