研究概要 |
計画に基づき金華山のニホンジカの個体数調査、生け捕りによる計測、サンプリング、遺伝学的解析をおこなった。 個体群変動については、2006年3,月に個体数調査をおこない、頭数を推定した。これにより1966年から40年にわたる変動が示された。また現存年齢集団の年齢構成をあきらかにし、1984年と1997年の大量死亡集団と比較することにより、1984年が年齢に無差別な寒波による死亡であったのに対して、通常年は0歳のシカに死亡圧がかかっており、1997年はその中間的な構成をとった。 計測による金華山における小型化と歯の磨滅速度が速いことが示されたが、個体別の履歴と体重変化などについての解析は十分にできなかった。しかし情報の確保はできたので、解析は近い将来確実に可能な段階に達することができた。 対象シカ集団は大半の個体の年齢や多くの個体の母子関係がわかっている。これを利用して遺伝学的解析をおこない、マイクロサテライト・マーカーを用いることにより、対象集団の126頭とそれ以外の51個体を分析したところ、遺伝組成はあきらかな場所的な局在性があることがわかった。これはわずか940haという面積を考えると意外性のあることである。行動観察からメスが定着的、オスが分散的であることがわかっているから、遺伝的類似性を示す指数(AI, assignment index)はオスのほうで低いと予想したが、雌雄で違いがないという意外な結果が得られた。このことは、そのほかの情報を加味して考えると、金華山島ではオスは分散するとはいうもののその異動範囲はきわめて局所的であると考えられた。このようにニホンジカのオスの行動や繁殖の遺伝的問題を空間との関連で解析したのははじめてのことである。 これらの成果について2006年の日本哺乳類学会でシンポジウムを開催して発表し、有意義な議論をすることができた。また現在編集中のSika Book(カリフォルニア州立大学D.R McCullough編集)に投稿した。またニホンジカの形態学的地理変異研究のなかで金華山のニホンジカが小型化しているだけでなく、歯の磨滅が著しいことなどを公表した。また金華山のシカを基盤としたニホンジカの総合的な成果についての著作を上梓した。
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