研究概要 |
富栄養化湖沼生態系の生態学的安定性と物質循環機構を解明し湖沼環境の修復手法を提言することを目的として研究を行なった。アオコの原因藻類の一種である藍藻類Microcystis aeruginosa,これを捕食する鞭毛虫類Monas guttula,細菌類Pseudomonas putida等から構成される連続培養系のマイクロコズムを用いて,栄養塩濃度とモデル生態系の安定性の関係について評価・解析を行った。外部から供給する窒素とリンの濃度を実湖沼の富栄養状態(A系統)から過栄養状態(F系統)まで6段階に変化させた。各系において藻類の個体数密度が安定した後に一定数のM.guttlaを導入した。全系において藻類の個体数は単調に減少し,個体数の半減期はA系統の2日からF系統の7日まで栄養状態が高くなるに応じて長くなった。M.guttulaの個体数は藻類の半減期に最大となり以後単調に減少した。溶液のpHはA系統の7からF系統の10まで変化した。暗条件下にてM.guttulaの増殖特性の栄養塩濃度及びpH依存性を調べると,増殖速度は高栄養状態で培養したM.aeruginosaを餌とした場合ほど高く,かつ,アルカリ側になるほど低下した。即ち,湖沼の栄養状態が高くなるとM.guttulaの藻類除去効果には一種のトレード・オフ関係が存在することがわかった。実験系に対応する数理生態モデルを構成すると,M.aeruginosaとM.guttulaの個体群動態を再現可能であった。 この系の多重安定性が明らかになれば,藻類除去に必要なM.guttula導入密度の最小値を得ることができる。尚,栄養塩濃度が生物の生理生態と個体群動態に及ぼす影響を解明するために物質フローの検証実験,及び,微小動物を利用した新規なバイオマニピュレーションの影響について順応的管理の手法に基づく検討を継続している。
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