研究概要 |
【目的と方法】本研究は,近縁外来種の侵入による在来種絶滅のメカニズムを生態・行動学的手法ならびに集団遺伝学的手法により明らかにするものである。本年度は,昨年度に引き続き,1)野外他におけるニッポンバラタナゴ(Rok)とタイリクバラタナゴ(Roo)の遺伝子頻度のモニタリング,2)水槽実験による亜種間の繁殖成功率の違い,3)Roo侵入によるRokの絶滅条件のコンピューターシュミレーションによる推定を試みた。 【結果】1)ミトコンドリアDNA(mtDNA)とマイクロサテライト(MS)について調べたところ,0歳魚は全てRokとRooの雑種であり,Rokは全く確認されなかった。雑種の頻度は昨年の52%から96%に増加し,そのうち92%がF_2以降の個体であった。雑種の遺伝子組成について見るとRokのmtDNA頻度は24%,MSにおけるRokの固有対立遺伝子頻度は全ての座において50%以下となり,雑種においてRok遺伝子はRoo遺伝子に置換される可能性が高いことが判った。2)昨年度は,大阪産Rok個体における近交弱勢の存在が示唆された事から,本年度は近交弱勢を持たない九州産Rok個体を用い,Rooとの間で混合飼育実験を行った。繁殖行動においてはRok(♀)×Rok(♂)の頻度が最も高かったのに対し,浮出仔魚ではRok(♀)×Roo(♂)の頻度が最も高く,昨年とほぼ同様の結果となった。3)Rooの初期侵入個体数を変えた各シミュレーションにおいて,所要時間は異なるもののRokはいずれの条件においても最終的には絶滅するという結果が得られた。 【考察】これら一連の実験結果から,Rooの侵入によるRokの絶滅は個体と遺伝子ではそれぞれ異なる要因により生じる可能性が示唆された。即ち,Rok個体の絶滅は,亜種間での繁殖率の違い,Roo雄の繁殖行動における優位性,初期発生における雑種強勢,亜種間での生殖前ならびに生殖後隔離の欠如の4要因により生じる。これに対し,Rok遺伝子の消滅は遺伝子レベルでの亜種間の適応度の違いにより生じる。
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