チゴガニの社会行動の地理的変異をみるため、waving displayとバリケード構築行動を取り上げ、それらの特性の地域集団間での相違を解析した。地域集団としては、チゴガニ分布域の北限地近くの宮城県蒲生干潟、分布域のほぼ中間域にある和歌山県田辺湾、南限地近くの奄美大島役勝川河口域の3つを取り上げ、気温条件が3地域間でほぼ同じになる時期に、雄のwaving displayの記録と、バリケード構築頻度の調査を行い、さらに和歌山県田辺湾の集団に対しては、気温がより低い春の時期にも同様の調査を実施した。 Waving displayの特性の中で、単位時間当たりのwaving回数とwaving1回当たりの時間は、同一地域内であっても、時期によって大きく異なる特徴を示したのに対して、wavingでの鋏脚の回し方と伸ばし方、さらに鋏脚を上げる時間に対する下げる時間の比率は、同一地域内で時期的な相違はないことが明らかとなった。さらに同一地域内で時期的な相違のない特性のうち、鋏脚の回し方と、鋏脚を上げる時間に対する下げる時間の比率は、いずれも奄美大島の集団が、他の2つの集団よりも明瞭に異なる特徴を示すことが明らかとなった。一方、バリケード構築頻度は、宮城県の集団が最も高く、奄美大島の集団が最も低いという結果が得られた。 集団間の遺伝的な相違については、遺伝子解析のサンプルの採集を済ませた段階で、解析にはまだ入っていない。
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