マイクロサテライト遺伝子座マーカーの開発:昨年度に引き続き、ヒラタヤスデの親子判定に利用可能なマイクロサテライト遺伝子座マーカーの開発を試みた。しかし、残念ながら親子判定に用いることの可能な多型に富む領域を特定することはできなかった。ただし、年度の終盤になって有望なポジティブクローンが得られており、現在、シーケンスと多型チェックを進めている。このマーカーの開発は本研究の要のひとつであり、最終年度も継続する。 雄の表現型操作による差別的繁殖投資仮説の検証:これまでの研究で、本種の雌が配偶者選択を行うこと、そして選択のターゲット形質は雄の体サイズであることが強く示唆された。さらに、野外の抱卵雄の体節数は大きく変異し、体節数の多い雄ほどクラッチサイズが大きくなることが明らかにされている。野外で観察される雄の抱卵数の変異は、配偶者選択に有利な雄と配偶した際に雌が多く産卵した結果かも知れない。この差別的繁殖投資仮説を検討するため、配偶者選択に有利な大型雄(体節数が多く体幅の広い雄)と相対的に不利な小型雄の実験区を設けて、1雄にランダムに選んだ1雌を振り分けた配偶実験(従って雌の表現型には実験区間に差が無い)を行った。その結果、産卵頻度、産卵までに要する日数、産卵数に、実験区間で有意な差は検出されず、本種の雌が差別的繁殖投資を行うという仮説は支持されなかった。一方、繁殖盛期に野外で雄が保護していたクラッチの孵化期間(孵化開始から終了までの期間)を調査したところ、大きなクラッチほど艀化期間が延長するという傾向が見いだされた。さらに、孵化期間の長いクラッチは間欠的に孵化する様子が観察された。この事実は、本種が雌訪問・複婚型の配偶システムを持つことを強く示唆している。配偶に有利な大型雄は、抱卵したまま繰り返し雌と配偶することによって高い繁殖成功を得る可能性が高い。
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